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生活の雑記帳

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『花野』 川上弘美著

 年末にいろいろ本を買ったときに、川上弘美の『神様』を買った。この短編集に『花野』という作品がある。話は、主人公の女性と5年前に交通事故で亡くなった叔父とのやりとりで綴られている。

 叔父は自分が心に思っていないことを口に出すと、すうっと消えていってしまう。叔父の言葉の本意が、消えてしまうのか、とどまっているのかで分かってしまう。
 だからこそ、現世への未練とがそこから感じられる。叔父は、死んでしまった自分のことを残された家族には、「忘れてもらったほうがありがたい。」というと、消えていってしまう。家族には、哀しい思い出を忘れて欲しいのは本心だが、自分のことを忘れてもらうのは哀しいということなのだと思う。
 叔父は「生き返りたいね」という。しかし、消えたりしない。そして、「私は神を信じる」といい、消えていってしまう。事故で亡くなってしまい、当然、未練はあるはずである。困ったときの神頼みということがあるが、現実に神様が生き返らせてくれるはずがない。そう思っている、叔父の心が見受けられる。
 もう、この世に表れないと決めた叔父が最後に、主人公と食事をする。そこで、そら豆を食べた叔父は「うまい」と言い、「神っていうのは、その、いないこともないものなのかもしれんな」と語る。今度は、消えたりしない。
 そして、最後に「いつか、また、会おう」と言い残し消えてしまう。二度とこの世に表れないという叔父の強い意志がそこにある。だが、それは、悲しい意思であり、悲しい別れだと思う。

 この『花野』は読んだあとに、何か残る作品だ。僕は読んだあとに、もう一度読み直した。僕が叔父ならどうだろう?僕が主人公だったらどうだろう?神様はいるのだろうか?
 この作品は、短編なんだけど、ものすごく心に響く話だと思う。読んだことがない人には、是非おすすめしたい。

 1月3日は、2006年に若くして亡くなった教え子の命日だった。僕の言葉は彼に届いているのだろうか?届けてくれるなら、僕は神を信じると思う。


  会えるなら たった一言でも 伝えたい


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by ikkokukandesu | 2008-01-04 03:33 | 読み物

日常の戯れ言を徒然と・・・


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